菅野研での大学院の考え方

<はじめに>
菅野研では、修士課程で就職する場合(簡単に「修士コース」といいましょう)と、博士課程まで進学する場合(同・博士コース)で、異なる考え方で対応しています。
修士コースの場合は、専門分野の知識を身につけ、「研究」という活動がどの様なものであるか、実地に経験することを目標とします。
博士コースの場合は、プロの研究者を養成することが目標になります。修士課程から入った場合は5年で、博士課程から入った場合は3年で、論文になるような具体的な成果をあげることが期待され、その過程で、プロの研究者としてやっていくために必要な様々なことを身につけるわけです。
修士コースは教育の最終段階、博士コースは「仕事」の最初の段階という認識です。
  <修士コ−スの場合>
修士コースの場合に、まず大切なことは、専門分野の知識を身につけることです。
菅野研の場合、それは、「ゲノム」分野の知識です(これに加えて「がん」分野の知識も学べます)。
「ゲノム」分野は、ゲノムを研究対象とする分野から、ヒトゲノムプロジェクトを成功に導いた考え方と方法論で特徴付けられる大きな分野になってきています。 その研究対象は、医学生物学全分野に広がり、ある意味、医学生物学全体の「ゲノム」化が進行中であるといえるでしょう。
ゲノム分野は進展の早い医学生物学の分野の中でも非常に早く進展している分野です。

そのため、教科書やスタンダードな勉強法がなく、その時々のトピックスを貪欲に吸収していく必要があります。
ゲノム研究の真っ只中にいる菅野・鈴木研は、そのような知識を得ていくのには良い環境であるといえるでしょう。
  オミックス バイオバンク CNV  
SNP ファルマコゲノミックス 新型シークエンサー
  マイクロアレイ トランスクリプトーム メタゲノム  
  連鎖解析・相関解析 ケモゲノミックス 合成生物学  
  バイオインフォマティクス CHIP-on-Chip 1000ドルゲノム  
システム生物学 non-coding RNA 個人ゲノム  
こういった、よく聞くが、はっきりとした意味がわかりにくいゲノム関係のキーワードも、メディカルゲノムの講義を聞き、菅野研で活動していくうちに自然に身についてきます。
実験については、修士コースでは、進行中の研究の一部を分担するという形が多くなります。

修士コースの場合は、2年間で修論をまとめる必要があります。しかも、講義だ就活だと、時間をとられることが多く、ゼロから自分でプロジェクトを考えて、それをまとめるという余裕がありません。
しかし、修論をまとめていく過程で、われわれがどのように考えて実験計画を立てたのかを、改めてなぞる必要がありますので、研究活動に対する最低限の理解は得られると考えています。
<博士コースの場合>
研究の目標は、新しいことを発見したり、発明したりすることです。
研究者は、このために活動します。

発見をするためには、

1)まず、わかっていることと、わかっていないことの境界を、はっきり認識する。
2)次に、未知の領域に切り込んで、知りたい新しい事実を得る方法を考る。
3)それを実行に移す。
4)得られた結果を分析して、新しい事実を知ることが出来たのか評価する。
5)価値のある新しい事実が、充分量得られた場合、論文を書いて発表する。
と言った作業が必要です。
プロの研究者は、この一連の作業を、日々こなしているのです。

博士コースでは、この作業を3年から5年で、とりあえず一通りやってみて、独力でこれが出来るようになることが目標です。
菅野・鈴木研では、博士コースの人は、最初の簡単な話し合いでテーマを決め、後は、基本的に放っておかれます。
独力で、プロジェクトをある程度たて、それを修正しつつ、最後に論文まで持っていくことが期待されています。
もっとも、修士課程のはじめには実験手技を身につけるために、一時的に進行中の研究のお手伝いをすることもあります。
基本的に、大学院生からの働きかけのない限り、スタッフ側からは積極的に働きかけません。
ただし、ディスカッションには喜んで応じますし、研究に関することなら、いろいろな要求にかなりの程度まで応じます。

新しい実験をしてみたい
テーマを変えたい
他の研究室に勉強に行きたい
この材料を入手したい
などなど

まあ、一見自由で、大人扱いですが、この方式が本当に良いかは、良くわからないところです。
特に、テーマは相互にほとんど関連が無いようにしているので、泥沼にはまった時には、誰も助けることが出来ず、方針変更も含め、基本的に自力で判断して何とかせざるを得ません。
私は、この過程で、いろいろ考え積極的に試行錯誤することで実力が付き、プロとしてやっていく自信が生まれると、考えているのですが...。
5年の時間がある場合は、かなり余裕があるので、これでも何とかなりますが、3年だと厳しそうです。
そこで、このごろはスタッフ側からの働きかけも、少しは行うようになってきています(実効性となると怪しい感じですが)。
<おわりに>

菅野・鈴木研では、修士課程入学時に、修士コースにするか、博士コースにするか、予め分かっていることを前提にしています。
ただし、入学時に、それが必ずしも明確で無い人もいるでしょう。
その場合は、「とりあえず」で決めておいてくれれば、結構です。
修士課程入学後の半年ぐらいは、修士コースでも博士コースでもほとんどやることは変わりません。
大体、博士コースのつもりが、就職したくなったり、修士コースのつもりだったが、土壇場で進学したくなったりということがあるものです。
さらに、私は、博士号を取っても、一概に、全員が、研究者になるべきだとは考えていません。
中国政府の最高幹部の大部分が工学系の博士号を持っていることは有名です。
アメリカでも、博士号をとった人の半数以上が、研究以外の職についています。
私の知っている人たちも、メディア、教育、金融、政府機関や会社のマネジメント、広報、営業、等々様々な分野で活躍しています。
社会の流動性が異なりますが、だんだん、日本もそのような社会に近づいていると思うのです。